あらすじ
芽野史郎は激怒した―大学内の暴君に反抗し、世にも破廉恥な桃色ブリーフの刑に瀕した芽野は、全力で京都を疾走していた。そう、人質となってくれた無二の親友を見捨てるために!(「走れメロス」)。最強の矜持を持った、孤高の自称天才が歩む前代未聞の運命とは?(「山月記」)。近代文学の傑作五篇が、森見登美彦によって現代京都に華麗なる転生をとげる!こじらせすぎた青年達の、阿呆らしくも気高い生き様をとくと見よ!
感想
随分と幅の広い作品である。5つの短編小説が収録されているのだが、それぞれ雰囲気が全く異なる。私のお気に入りは、森見登美彦氏お馴染みの「腐れ大学生シリーズ」にあたる、三番目の「走れメロス」である。
四番目の「藪の中」は森見登美彦氏の話ではないかと思う。小説を書くことへの主人公の思いは登美彦氏のものではないだろうか。京都への思いといい、この作品には氏の心の内が多分に含まれているに違いない。
迷言(名言)
熱心に部活や勉強に打ち込む連中を横から眺め、大学生らしい馬鹿騒ぎをする連中を横から眺め、恋愛に右往左往する連中を横から眺めて過ごしてきた。私はつねに、何事かに「参加していない」と感じていた。何事かに参加しなくてはならないという義務感に駆られることを、私は漠然と嫌っていたのだが、そういう自分を不思議に思うこともあった。いつの間にか私はそんな風になったのだろう。それとも、誰もが似たり寄ったり、同じような感覚を持つのだろうか。自分は充実した学生生活を送っていないのではないかというような、平凡な悩みだろうか。となりの芝生は青く見えるということだろうか。
まさしく私のことである。もし、あなたがこういう感情を持ってしまった学生であるならば、今すぐにでも街に出なければならない。そうしなければ、「自分は他人とは違う」などという勘違いを犯すことになる。
しかるのち、大学院経済学研究科への進学を試みるなどという、声に出すのも恐ろしいような未来を迎えることになるのは想像に難くない。そんな私はあと3ヶ月で修了である。
結び
他の作品に比べて全体的にすっきりとしている印象がある。わずか520円でこれだけのエンターテイメントを愉しめる世界は素晴らしい。