あらすじ
私の大学生活には華がない。特に女性とは絶望的に縁がない。三回生の時、水尾さんという恋人ができた。毎日が愉快だった。しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった! クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走する。失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
感想
歴史的名作「腐れ大学生シリーズ」の始まりの一作である。正確に言えばその前にも色々とあるようだが、処女作となったのが『太陽の塔』である。登美彦氏は、この作品でファンタジーノベル大賞を受賞し小説家になる。
本作品は、後の「腐れ大学生シリーズ」に比べて少し上品な感じだが、それは『四畳半神話大系』などがどうしようもないくらいに阿呆な作品だからであって、はじめて読んだ方は十分驚くことだろう。
私は登美彦氏の作品のテンションが大好きである。後に太田出版の『四畳半神話大系 公式読本』を読んでいて見付けたのだが、これは私立男子高校的な語りが含まれているからであって、あまり付いて行く気が進まない方もいるらしい。そういう方は言うまでもなく私立男子高校からやり直すべきである。
迷言(名言)
この「東大路通り」というヤツ、洛北を通るときにはあたかも京都を南北にまっすぐ貫いているように装いながら、そのじつ祇園八坂でぐにゃぐにゃと腰砕けになり、やがてなし崩しに九十度回転して九条通りになってしまうという、私の嫌いなタイプである。
私は京都市で4年間大学生活を送った。京都市内で100箇所の神社仏閣を巡るという大学四年冬の記念行事を自転車で行ったおかげで、私は京都の道には相当詳しい。ちなみに、京都生まれ京都育ちの人は「銀閣寺の位置を知らない」なんてことがよくある。
当然、東大路通りを使ったことは数え切れないほどあるし、九条通の辺りを走ったこともあるが、真っ直ぐではないことなど全く気が付かずに素直に通り過ぎてしまった。おそらく普通の人はそうであるに違いない。
ちょうど太古の生物たちの死骸が石油となり現代の文明を築く礎となったように、我々も過去の情けない馬鹿丸出しの自分を燃料としていまこそ見事に走ってみせねばならぬ。
このブログを訪れるような方は、「薔薇色のキャンパスライフ」(森見登美彦『四畳半神話大系』角川文庫)を手に入れ損ねて燻っているに違いないので、ぜひとも座右の銘にして頂きたい名言である。
結び
2025年には大阪万博が控えている。本作品はメインの舞台は京都だが、タイトルの通り、太陽の塔が物語の鍵を握っている。森見ワールドと太陽の塔のコラボは、大阪万博で紹介して良いほどの傑作であるのでぜひ読んでみて頂きたい。