森見登美彦『四畳半神話体系』を読んで

あらすじ

私は冴えない大学3回生。バラ色のキャンパスライフを想像していたのに、現実はほど遠い。できれば1回生に戻ってやり直したい! 4つの並行世界で繰り広げられる、おかしくもほろ苦い青春ストーリー。

感想

私が知る限り最高のファンタジーである。しかし、そのスケールは限り無く小く、舞台はほとんど京都市左京区で収まっているし、ストーリーも不毛な学生生活の中に収まっている。

京都という街の魅力があるからこそ生まれた作品なのだろう。もちろん、京都を知らなくても楽しんで頂けるが、京都を知っていると、森見ワールドが街の雰囲気と共に現れてくる。

こちらの作品はアニメ化されており、第14回文化庁メディア芸術祭のアニメーション部門で大賞を受賞した傑作である。特に、京都の街の雰囲気が分からない方にオススメしたい作品である。

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先日、この作品の16年ぶりの続編、「四畳半タイムマシンブルース」が出版された。こちらも大変な傑作なので是非。

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迷言(名言)

能ある鷹は爪を隠すということわざにあるごとく、慎ましく誰にも分からないように隠し通したせいで、ここ数年はもはや自分でも所在が分からなくなっている私の良識と才能を、会って五分も立たないうちに見つけだすとは、やはりただ者ではない。

主人公を導いてくれる占い師との出会いのワンシーンだが、これぞ森見節といった感じの言い回しである。くしくもこのブログを執筆している私も、長らく片鱗を見ていない才能に覚えがあるので、見つけ出してくれる占い師を探している。

我々の大方の苦悩は、あり得べき別の人生を夢想することから始まる。自分の可能性という当てにならないものに望みを託すことが諸悪の根源だ。今ここにある君以外、ほかの何者にもなれない自分を認めなくてはいけない。

もはや説明の必要性など見つけようもない名言である。私も4年間の大学生活をただひたすら無益なことに使い、挙げ句の果てに文系大学院に進学するという過ちを犯した後には大変後悔したが、そんなものはしても無駄であると学んだ。ちなみにこれほどの名言を言ってのける樋口清太郎なる登場人物は大学八回生である。

不毛と思われた日常はなんと豊穣な世界だったのか。ありもしないものばかり夢見て、自分の足元さえ見ていなかったのだ。これは私が選んだ人生、私が望んだ結果である。

こちらはアニメからの台詞の引用である。私が今までの人生で聴いた中で一番の金言である。先述した「八十日間四畳半一周」にあたる部分のワンシーンだが、小説にはこの台詞はない。アニメ「四畳半神話体系」が小説の世界観を忠実に再現しながらもアニメとして進化している所以の一つである。

結び

森見登美彦氏の作品はファンタジーと言われるが、貴方の知っているファンタジーとは全く異なるだろうと思う。是非、新しい世界の扉を開けて頂きたい。