柿埜真吾『ミルトン・フリードマンの日本経済論』を読んで

あらすじ

ノーベル経済学賞を受賞し、20世紀後半から21世紀初めにかけて世界に燦然たる輝きを放ったアメリカの経済学者ミルトン・フリードマン(1912-2006)。しかし、この「巨匠」がじつは繰り返し日本に関する分析と発言を行なってきたことを、どれほどの経済人が知っているだろうか。日本のバブル崩壊とデフレ不況を予見し、金融政策の誤りや貿易摩擦、構造問題を語った数々の言葉に、いまこそ私たちは耳を傾けるべきであろう。「私は日本の資本主義に誤りがあったとは思わない」。日本のエコノミストから「市場原理主義者」のレッテルを貼られた彼こそ、誰よりもわが国を救う「金融政策」および「減税」の重要性を論じていたのだ。「フリードマンの思想は誤解されがちだが、彼の分析は現代日本の様々な経済問題を解くための貴重な洞察に溢れている」(本書「はじめに」)。フリードマンの対日分析を、新鋭の経済学者が深く掘り起こした衝撃のデビュー作。

感想

金融政策の重要性を理解するための最高の入門書である。流行り病の影響下で需要を作るための財政政策へ注目が集まっている印象があるが、平時の自由主義経済の中でより重要なのは金融政策である。

日銀がつい最近まで誤った金融政策への理解に基づいて、不十分な金融緩和で日本のデフレを継続させたこと、また、安倍前総理大臣が日本の金融政策を正しい方向に導いたことは記憶に留めておきたい。

備忘録

フリードマンは「日本経済の成功は政財官が一体化した『日本株式会社』によるものだ」といったステレオタイプな日本経済特殊論を実証的に批判し、(中略)自由市場と安定した金融政策が日本の経済発展の鍵であり、1990年代以降の停滞の原因は金融政策の失敗によるデフレ不況にあるとするフリードマンの指摘には、今日でも学ぶところが少なくない。

日本では、左派だけではなく右派からも日本の長期経済停滞の原因を財政支出の不足に求める論調が出てきているが、フリードマンによれば金融緩和の不足が原因なのだ。ちなみに財政政策については次のように述べている。

フリードマンは、大恐慌のような銀行機能が麻痺した例外的な状況では、貨幣供給を増やす手段として中央銀行の国債購入を伴う政府支出拡大が有効であるとしていたが、金融政策の支援なしの財政政策単独の効果には懐疑的だった。フリードマンは、中長期的には政府支出拡大はむしろ有害で、小さな政府こそ経済成長をもたらすと考えていた。

つまり、官僚の権限を拡大し自由を奪う財政政策ではなく、金融政策こそが政策の中心なのだ。これこそが自由主義の真骨頂だろう。

1962年には『資本主義と自由』(Friedman 1962)を発表し、経済的自由と政治的自由には密接な結びつきがあり、社会の進歩のためにも計画経済ではなく、市場経済が不可欠だと訴えた。移動の自由や職業選択の自由といった経済的自由はそれ自体が重要な権利であるだけでなく、政治的自由の十分条件ではないにせよ、必要条件である。

『資本主義と自由』はジョン・スチュアート・ミルの『自由論』、フリードリヒ・ハイエクの『隷属への道』と並ぶ自由主義の三大古典とされており必読の書である。

『資本主義と自由は』こちら

最後に、自由主義の大家であるフリードマンは、日本の自由主義について次のように語っている。

フリードマンによると、日本は統制経済の有効性を示す実例どころか「自由な社会こそが発揮できるいくつかの素晴らしい利点を、経済の面においても政治の面においても示している非常によい実例」である。フリードマンが証拠として挙げたのは、日本の経済成長が自由市場、自由貿易の時代に加速し、身分社会だった江戸時代や、太平洋戦争の戦時統制経済の時代には停滞したという事実である。

結び

自由主義者である私は、この本を読む必要性を次のように考える。自由が最も大切なものであるというイデオロギーの話とは別に、自由は経済成長のためにも必要である。日本で、自由を大きく損なうことになる財政政策への執着が強いのは、“日本株式会社”などに代表される、計画経済への誤解があるからだ。これらを取り去った時、自由の本当の意味が理解しやすくなると、私は考える。