アマルティア・セン『グローバリゼーションと人間の安全保障』を読んで

あらすじ

21世紀に入ってもなお、世界中に蔓延しつづける貧困、飢餓、不平等。それらが是正されない理由としてしばしば槍玉に挙げられるのが「グローバリゼーション」である。だが、諸文明の交流の歴史を辿るなかで見えてくるのは、グローバリゼーションは決して新しい現象でもなければ、西洋的価値の単純な押し付けでもないという厳然たる事実だ。現代のグローバル化を歴史的に位置づけ、「人間の安全保障」という観点から個人の生や自由を確保する重要性を日本人に向けて説く。真に公正な世界をどうつくるか。ノーベル賞経済学者センの射程の長さがうかがえる来日講演集。

感想

第一章で展開される議論に、何か理想主義的で呑気な印象を受けた。著者は次のように主張する。

宗教に基づくアイデンティティや文明を基準にしたアイデンティティは、非常に重要であるかもしれません。しかし、それはさまざまな所属の一つでしかないのです。(中略)人の宗教的な、あるいは文明による所属先だけをとりあげて、それが他のすべてを包括するアイデンティティであるかのように扱うのは非常に問題の多い診断であるといえましょう。(中略)宗教的なアイデンティティという領域は、それ以外の世界観や所属のすべてを消し去るものではないのです。

確かにその通りだが、著者がこの講義を行なって以来世界は変わった。欧州には大量の難民が流入し宗教や民族間の対立が激化している。文明や宗教という違いを矮小化することは現実を見誤ることになる。

一方で、最後の章で言及される論理的ヒューマニズムには世界平和のためのヒントがあるかもしれない。私は、多文化共生とは、一つの国家の中で多文化が共生することではなく、一つの惑星にさまざまな国家(文化)が共生することであると考えている。そのため、著者が本書で繰り返し言及している、アクバル王のやり方には共感しないが、後者の方法で世界平和を追求するにしても、論理的思考は重要になるだろう。

備忘録

家族とともに生活することから男性だけではなく女性も恩恵を受けていると言う理由から、家族内に性差別が存在しないと診断することはできません。同様に、グローバリゼーションの恩恵には、貧困層もわずかながらでもあずかっているから貧困層のさらなる貧困化をもたらしてはいないと論ずることでは、グローバリゼーションの不公正をしりぞけることはできません。

本書の中で、一番納得した個所である。だからと言って、グローバリゼーションを否定することには繋がらないという点も、本書では言及されている。

アクバル王が掲げた命題は、「何人たりとも宗教を理由に干渉されることなく、いかなる人も自らの好む宗教に傾倒することを許されるべきである」ということでありました。そしてアクバル王は、この複雑かつ困難な国家的命題に国家が対応するに当たっては、「伝統への依存」ではなく「論理性の追求」によるべきであると考えたのでした。

これが本書の中心たる主張である。私は地球を一つの惑星と捉えた時、この考え方が重要になるのではないかと考えている。

結び

著者は上記のような論理的ヒューマニズムに希望を託している。これは保守主義者にも通用する理論ではないかと私は考える。