日本の二酸化炭素排出量の推定と輸入に内包された二酸化炭素の分析 2

日本の輸入に内包された温室効果ガス排出量(2011年)

温室効果ガス排出量推定の方法

温室効果ガス排出量の基準の議論と並行して、学術の世界ではそれを計算するためのモデルの発展があった。温室効果ガス排出量は産業連関分析を用いて推定される。産業連関分析は、環境経済学の分野では、一般的に越境汚染物質の測定に使用されるもので、主な成果が発表されるようになったのは1995年以降だが、2010年前後までは、多くの論文が単一の物質の排出量を、単一の国と単一の年を対象に研究していた。しかし、輸入に内包される温室効果ガス排出は、単一の国の産業連関表には現れないので、研究者は、消費ベースの温室効果ガス排出量を計算できなかった1

産業連関分析

ロシア人の経済学者ワシリー・レオンチェフによって、1936年に、Review of Economic Statistics誌に発表された経済データの枠組み、産業連関表を利用して、いわゆる“経済波及効果”を計算する分析手法。近年では環境問題への応用がなされている。

そこで、研究者たちは国産技術の仮定と呼ばれる方法を用いて、輸入に内包される温室効果ガス排出量を計算することを試みた。これは、輸入品が国産品と全く同じ状況の下で作られたと仮定するもので、これにより、一国のデータが手に入れば、消費ベースの温室効果ガス排出量を求めることができることになる。しかし、大きな誤差が生まれることは言うまでもない。その後、消費ベースの温室効果ガス排出量を正確に推定するために新たに考えられた2つの手法が、単一方向貿易アプローチと多地域間産業連関分析である1

単一方向貿易アプローチは、各国の産業連関表と貿易データを外生的に結びつけるもので、輸入に内包される温室効果ガス排出量をそれぞれの輸出国ごとに計算する。例えば、日本の輸入に内包される温室効果ガス排出量を計算する場合、イギリス、フランス、ドイツ等の産業連関表を用意して、それぞれの国で日本への輸出品の生産の過程で排出された温室効果ガスを計算し、合計することで求める2

一方、多地域間産業連関分析は、各国の投入係数行列と中間財の輸入を内生的に結びつけ、一つの大きな投入係数行列を作るものである。簡単に言えば、世界全体を一つの地域とみなし産業連関表を作成するということである。これにより、世界中での排出を一本の方程式で求めることができる2

この両者の差はフィードバック・エフェクトと呼ばれる。たとえば、日本で生産された半導体が中国に輸出され、その半導体を使って作られたコンピューターが今度は日本に輸出されたと仮定する。この場合、半導体を生産する過程で排出された温室効果ガスは、日本の消費ベースの温室効果ガス排出量に含めることが望ましい。しかし、単一方向貿易アプローチでは、この複雑な関係を記述することができない。一方で、多地域間産業連関分析ではこれが可能になる3

長らく、データの制約により、多地域間産業連関分析が行われることはなかったが、近年、ようやく多地域間産業連関表が作成されるようになった。しかし、実際に完成したデータを実証分析に使ってみると、思わぬ問題が明らかになった。

多地域間産業連関表を作るとき、異なる基準で作られた膨大なデータを集めてきて、同じ基準の下で組み合わせることになる。その際に、集めてきたそれぞれのデータに加えられた編集が、誤差を生んでしまうケースがあることが明らかになった4。一方、多地域間産業連関分析を行ってみると、一部の国を除いて、フィードバック・エフェクトが無視できるほどに小さいことが明らかになった5

そこで、本論文では、ハイブリッド・モデルと呼ばれるものを使用する。このモデルの特徴は、消費ベースの温室効果ガス排出量を推定する際に、国内での排出と海外での排出(輸入に内包される温室効果ガス排出量)を分けて計算することである。本論文で考えれば、日本国内での二酸化炭素排出は、日本の総務省他が作成する精度の高い産業連関表を用いて計算し、海外での排出は、多地域間産業連関表を用いて計算することになる。

参考文献

本稿は、当ブログの運営者が2021年に提出した修士論文を和訳、一部訂正を加えたものです。詳しい情報をお求めの方は“お問い合せ”よりご連絡ください。